神戸市北区に引っ越しました(1)

text=岩﨑大輔(神戸R不動産/Lusie inc.)

以前、「僕が31歳で二拠点居住を始めたワケ」という連載で、西宮市と京都府福知山市、2つの拠点を持って暮らしていることをレポートしてくれた神戸R不動産のメンバー。ところが、さらに理想的な環境を見つけたと言って、軽やかに神戸市北区に引っ越してしまった。その引っ越しストーリーをお届けします。


神戸市北区は山の中に開かれた町と言っていい。自宅は標高約300m。

こんにちは、神戸R不動産の岩崎です。ご無沙汰しています。

兵庫県西宮市と京都府福知山市で2009年から二拠点居住を続けていた僕は、今からちょうど一年前、神戸市北区へ引っ越した。そのきっかけは、何の前触れもなく突然やってきた。たまたま目にした物件によって、それまでぼんやりしていた暮らしのイメージが急にはっきりとしたのだ。いてもたってもいられなくなった僕は帰宅途中、車を路肩に停め、「神戸市北区に家を買って引っ越しするってどう思う?」と電話でいきなり妻に告げる暴挙に出た。しばし無言の後、「また始まったか…」と言わんばかりの大きな溜め息が電話口から伝わってきたのだが、結局あれよあれよという間に僕たち家族は神戸市北区へと引っ越してしまった。

電車10分、車15分で切り替わるモード

市街地から帰宅する道中の有馬街道。こちらの交差点を過ぎ、間もなく山道に差しかかると急に気温が変わり始め山へと帰る気分に。

それまでの二拠点居住では、車で約1時間30分かけて切り替わる2つの日常に魅力を感じていた。ところが、神戸市街地から電車10分、車15分でオンとオフのスイッチが切り替わる場所を発見してしまったのだ。それは、神戸市北区「鈴蘭台」という町の一角だった。


写真中央の木に埋もれた家。鈴蘭台駅から徒歩5分。手つかずの森が庭状態。
“山のそば”から、“山の中”へ

山のような庭木を整理し、町の中で森に暮らす。

神戸は山が身近な存在だが、“山のそば”と“山の中”では環境に大きな違いがある。そして、西宮市から神戸市北区に引っ越してからは、“山の中”に暮らしているという感覚が強くなった。

たとえば鳥の声。こだまするよう鳴り響くその声に、最初はとても驚いた。駅徒歩5分の場所なのにそれこそ耳元で鳴いているような鳥の声が聞けたりする。町の中だけど山の中だからこそだ。

また、町内の空き地や道路脇でいろんな山菜やハーブが採れるのだが、近所のおばちゃんがそれらにやたらと詳しく、日頃から採って食べていることに感銘を受けた。町内の草刈りでは、草を刈りながら山菜を収穫し、みんなで分け合った。おかげで、家の近所で何が採れるかちょっと詳しくなれた。僕が思っていた以上に、神戸市北区の住民は山の暮らしを送っていたのだ。


草刈りしながらせっせと山菜を収穫する近所のおばちゃん。
茅葺き古民家からニュータウンまで

元は農村だった鈴蘭台エリア。駅が整備された昭和3年以降に宅地開発され、戦前はダンスホールやビヤホールなどを擁する避暑地だった。戦後は最初期のニュータウンに。新興住宅地の家並みに突如、茅葺き古民家が現れるという不思議な混在が面白い。

農村が多く残る神戸市北区には、あまり知られていないが建設年代が室町時代にも遡る日本最古の民家が存在する(1977年まで実際に住まれていた)。加えて、いわゆる“阪神間モダニズム”(※)の影響もあってか、鈴蘭台には茅葺き古民家などに加え、和洋折衷のハイカラな建物も多く存在するのが特徴だ。それらがニュータウンの風景に混じってごく平然と建ち並ぶさまは、ちょっとシュールと言えなくもない。建物のバリエーションがあるという点では、神戸市内でもユニークな町と言えるだろう。

※阪神間モダニズム…明治後期から昭和15年頃にかけて、灘、芦屋、西宮、宝塚といった「阪神間」で華開いたブルジョワ層の文化・ライフスタイル。六甲山上・山麓に高級別荘や一大リゾートが形成された。


現在の僕の家は昭和初期の和洋折衷な造り。長い間放置され取り壊される運命にあった建物を、市場価格の約1/3で取得し、再生を試みた。
不揃いな町の魅力

鈴蘭台駅前の路地裏。立ち飲み併設の酒屋、バール、スナックビルのネオンなど雑多な個性と建物が生み出すまちなみ。

以前は、鈴蘭台エリアをもう少し整然とした町だと思い込んでいた。だが歩いてみてわかったのだが、実際は曲がりくねった、車も入れないような急坂の路地裏に古民家が並び、と思えば行楽地であった時代の名残りか、数百軒ものスナックや、個性もバラバラなの新旧飲み屋が混じり合いひしめいている。廃墟化した空き家も目立ってきているが、ちょっと寂しげなダウンタウン的まちなみは逆に妙な居心地の良さがあり、むしろポテンシャルすら感じる。地元の寿司屋で隣り合わせになったスナックのおばちゃんが、焼酎とアテをごちそうしてくれた。おばちゃん曰く、鈴蘭台は村のようなコミュニティーだそうだ。

現在進行中の駅前再開発により、町の風景はますます混沌さを増すだろう。でもそんな雑多さこそが、この町のカラーであると半ば肯定的な気持ちにすらなってしまう。

生産者に近い町に暮らすということ

神戸市産を中心に兵庫県内の契約農家から届く有機・無農薬・減農薬栽培などの野菜が並ぶ直売所「はっぱや神戸 野菜ごはん」は神戸市北区への引っ越しを後押ししたお店。併設されたレストランでは、生産者の人柄まで伝わる手書きの紹介文を読みながら、珍しい品種の野菜が使われた料理のバイキングが楽しめる。シェフによるメイン料理、ご飯付きでランチ1,200円など。

神戸市北区・西区には農家がたくさんいるが、神戸市の中心市街地のスーパーなどで神戸市産の農産物に出会うことは意外に少なかったりする。北区に引っ越して最初に感じたのが、神戸市産の野菜が手軽に手に入るエリアだということだ。外食やジャンクフードも好きだし、やめるつもりもないけど、大部分を占める家での食事くらいは気を遣いたい。そんな僕にとって、直売所や無人販売所、トラックでの直販売が身近で、作り手の顔が見える地元農家さんの農産物に手軽に出会える環境には、とても満足している。

(第2回に続く)